こどもと通信Vol.12 ”2025 音楽会を終えて”

2025 音楽会を終えて

突然ですが、私は人前に立つことが得意ではありません。
今でも大勢の前に立ち、マイクを持つ瞬間は胸の奥がきゅっとします。声を出す前、息ができなくなるような感覚に陥ります。何度経験しても、慣れることはありません。
 
音楽会当日、舞台袖で緊張した表情のこどもたちを見ていました。小さな体で、たくさんの視線を受け止めている姿は、私自身の気持ちと重なって見えました。
 
舞台の上で、思うように動けなかった子がいました。
セリフが言えなかった子、立ち止まった子もいました。
保護者の皆様の中には、胸が締めつけられる思いで見守られた方もいらっしゃったと思います。
でもその姿は、特別なものではありません。それだけ「一生懸命に向き合っている」という証なのです。
 
普段のこどもたちは、音楽や表現を心から楽しみ、のびのびと活動に取り組んでいます。ですが、人前という特別な場では、その力がそのまま出るとは限りません。むしろ、緊張することは自然で当たり前のことです。それは大人もこどもも同じです。
 
私たちは、その瞬間を「できなかった経験」とは捉えていません。
たくさんの人の前に立ち、最後までその場にいようとしたこと。それは日々の積み重ねがあってこそ踏み出せた勇気であり、「怖い」と感じながらもそこにいようとした事実そのものが、確かな成長です。
 
上手に話そうとしなくていい、うまくいかない瞬間があってもいい。
私もその場に立っている自分を、まずは認め、その場に立ち続けることでしか得られない経験を学びたいと思っています。
 
保育の中で私たちが大切にしているのは、「今、できたかどうか」ではなく、「その子が挑戦する場にいられたかどうか」です。
 
音楽会は、一日で終わります。ですが、あの日の緊張・勇気・達成感は、こどもたちの中に確かに残っています。次に人前に立つとき、ほんの少し背中を押してくれる力になるはずです。
これからも園では、一人ひとりのペースを大切にしながら、失敗も、立ち止まる時間も含めて、「育ち」として受け止めていきます。
 
保護者の皆様と一緒に、こどもたちの小さな一歩を、丁寧に見守っていきたいと思います。